TOPページ>ベスト・ドクターズサービス>ファインド・ベスト・ドック

ベストドクターズ選出医インタビュー詳細

小児心臓手術の時間短縮を目指して

財団法人日本心臓血圧研究振興会
附属榊原記念病院副院長 心臓血管外科主任部長
高橋 幸宏 先生

循環器の専門病院としての自負、心疾患を患う子どもたちの最後の砦として「われわれは日本一でなければならない」と言う高橋幸宏先生。その正確で速い手術手技は、クイックサージャリー、ゴッドハンドと形容されている。低侵襲の心臓手術を目指し、人工心肺の開発にも力を注いできた。「一番大事なのは、手術時間をいかに短くするか、それに勝るものはない」と語る高橋先生に速さの秘密などを伺った。

クイックサージャリーを支えるのはスタッフの「あ・うん」の呼吸

 大きめのいちご――新生児の心臓の大きさだ。小さな胸の傷口から、その小さな命の源がのぞく。高橋先生のスラッと伸びた10本の指が、それを救うために滑るように動いていく。まるで、高橋先生の要求を先取りするように、ナースは次から次へと器具を差し出していく。手術室内にいるスタッフの息遣いさえ、同じリズムで刻まれているようだ。心地のよい緊張感の中、室内のCDプレーヤーからは、ごく控えめな音量でロックが流れていた。
 小児心臓手術におけるクイックサージャリーでは、およそ右に出る者はいないとされる高橋先生。「速さの秘密は?」との質問に返ってきた答えが「あ・うんの呼吸」だった。それを実現するには「くり返し、くり返し、行うこと。体で覚えるしかありません」と静かな口調で語った。
 「助手はもちろん、例えばナースであっても、同じ手術に立ち会ったら、僕と同じことを考えられるようになってもらわないといけない。彼らには、一流を目指して終わるのではなく、一流になってもらわなくては困るんです」
 高橋先生が専門とする小児の心疾患は多彩だ。ほとんどが先天性の心臓の形状の異常によるものだが、日本では、最も多いとされるのが心室中隔欠損症(ventricularseptal defect:VSD)である。乳児期に診断される先天性心疾患の約60%を占める。VSDの子どもの心臓は、文字通り、心室の中隔に孔(欠損孔)が開いている状態で、心臓の血流に異常を来す。孔から漏れ出るため、肺への血流が多くなり、肺高血圧症などが起こりやすくなる。比較的孔が小さければ、定期的な経過観察をしながら、時間とともに自然に塞がってしまうこともある。しかし、一方では体重の増加不良、呼吸不全が著しい場合や、肺高血圧症や大動脈弁に大きな変形が伴う場合には、待ったなしで孔を塞ぐ手術が必要となる子どももいる。
 「心臓の手術は、体外循環という非生理的循環を伴い、全身に対しての侵襲が非常に大きな手術になります。体も小さく臓器の発達も未熟な子どもであれば、その影響を受けやすくなるのは当然。子どもたちの人生はスタート地点に立ったばかり。手術後には長い一生が待っています。だからこそ、いかに侵襲を小さくするかが重要なのです」

侵襲を小さくするために超小型の人工心肺装置を開発

 侵襲を小さくするためのポイントはいくつかある。例えば、人工心肺装置の充填量も、その一つだ。心臓の手術(開心術)では「人工心肺という異物との接触が、炎症反応の始まりであり、接触面を最小限にすることが、リスク回避の最良の手段」となる。そこで、高橋先生は、自ら人工心肺装置の開発に加わり、充填量が130mlという超小型の装置を完成させた。
 輸血を最小限にとどめることも、低侵襲の大きな条件だ。未知のウイルスの存在は誰にも予測できない。輸血量が少ないほど、術後の回復が早く、予後が良好であるとデータも示している。
 そして、つまるところ、これらの条件をクリアし、侵襲を小さくするには「手術時間を短くすることに尽きる」。もちろん、時間短縮できればそれでよいわけではない。「確実に時間をかけなくてはいけない部分もありますが、素早く、安全かつ確実が原則。時間が勝負です」。循環器の専門病院としての自負、心疾患を患う子どもたちの最後の砦として「われわれは日本一でなければならない」と力を込めた。
 高校生のころから、高橋先生は「将来医者になる。それも子どもの心臓の医者になる」と周りに公言してはばからなかった。熊本大学に進んでからも、心臓、それも子どもの心臓にこだわった。「熊本赤十字病院で修行を積んだ後、何とかもぐりこませてもらった」榊原記念病院、それ以来、「怖かったボス」のもとで、心臓外科医としての腕を磨いてきた。
 手術場で「お前は頭で考えることができていない。手術は考えてやるものだ。もっと考えろ、頭を使え」と怒られたかと思えば、次の日、今度は「難しいことを考えるな。手術は体で覚えるもんだ。とにかく手を動かせ」と怒鳴られる。理不尽と考える暇などなく、師の後ろ姿を追う日々。「そういう日本的なやり方って、最近は敬遠されたり、否定されたりしがちですが、今もどこかで確実に私の糧になっている。むしろ、私は今でも大切だし、効果的な指導法かなと思うこともあります」
 病院が東京都・渋谷区から、府中市へ移って丸7年。約2万2,000m2の敷地。整った環境で、とにかく日本一に向かって走り続けてきた。「チームとしてその実力に、胸を張れるのがうれしい」と高橋先生は言う。「患者さんはもちろん、医療者も人間。人間が大事です。すべては、人間からしか生まれませんから」
 最近は、地方からの中堅ナースの研修も受け入れている。「ここで3カ月働けば、どこの施設に行っても、通用する一人前のスタッフになれる」と太鼓判を押す。この榊原記念病院で培った力を、ぜひ帰った先で花開かせてほしいと期待は大きい。
 クイックサージャリー、神業、ゴッドハンド…。周囲からは並はずれた才能、まねのできない技術だと形容される。しかし、高橋先生にとっては「当たり前のことを普通にやっているだけ」。以前は困難であったある種の技がいつか当たり前になり、その当たり前を淡々と続ける、そこに名人の名人たるゆえんがあるのかもしれない。(2011年9月記事)

1981年熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院研修医コース終了後、一貫して、榊原記念病院にて小児の心臓血管外科の研鑽を積む。研修医、研究員を経て、98年榊原記念病院心臓血管外科部長、2003年同主任部長、06年より現職。より侵襲の少ない手術とは、より手術時間が短い手術であるとし、その実践のために小児用の超小型の人工心肺の開発や、医師・ナースなど手術を支えるチームの人材育成に取り組んでいる。「医療崩壊まったなし」との危機感に、地域医療の再編、質の確保に尽力する。

外科医と院長―「当たり前」を積み重ねる日々

日本赤十字社医療センター院長
東京大学名誉教授
幕内 雅敏 先生

世界を駆ける、胃がん手術のスポークスマン

がん研有明病院 消化器外科部長
佐野 武 先生

目指すは必要十分かつ安全な手術

兵庫医科大学 上部消化管外科教授
笹子 三津留 先生

「患者中心のチーム医療」に取り組む

昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科部門教授
昭和大学病院ブレストセンター長
中村 清吾 先生

Treat to Target(目標に向けた治療実現)
進化する関節リウマチ治療の標準化を目指す

慶應義塾大学医学部 リウマチ内科教授
竹内 勤 先生

セカンドオピニオンの取得をお考えですか?法研のベストドクターズ・サービスは米国ベストドクターズ社が独自の調査によって選出した
信頼できる名医・専門家や医療機関をご案内します。名医・専門医のご案内をご希望なら、法研の健康相談をご利用ください。