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ベストドクターズ選出医インタビュー詳細

「患者中心のチーム医療」に取り組む

昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科部門教授
昭和大学病院ブレストセンター長
中村 清吾 先生

乳がんの診療は、標準化からさらに「個別化治療」へと進んでいる。病態や、がん細胞のサブタイプを分析し、患者ごとに適切な治療戦略が練られる。それは、早くから科学的な検証に耐えうるガイドラインが整備されてきたことに負うところも大きい。「アジアの中で日本が地盤沈下しないように、ガラパゴス化は避けたい」と、常に国際的視野と患者中心の視点を失わずに「チーム医療」を実践してきた中村清吾先生に、最新知見を伺った。

センチネルリンパ節生検を標準治療に

 「お願いします」の声とともに、手術が始まる。乳腺の摘出を終えると、開いた術野から腋の下に手を入れて、丹念に探って、疑わしいリンパ節を取り出す。助手の医師とともに丁寧に確かめ合い、検体がそろったところで、病理に回され、転移の有無を検査。乳房切除後のセンチネルリンパ節生検だ。
 乳房のがん細胞が最初にたどり着くとされる腋窩のセンチネルリンパ節、そこへの転移の有無を確認する手技がセンチネルリンパ節生検である。
 ほんの数年前までは、乳がんの摘出術には腋窩リンパ節郭清は必須で、転移の有無や転移個数を調べていた。結果として、腋窩リンパ節への転移がない症例に対しても行われることになる。術後に現れてしまう腋窩の腫れやむくみ、それによる上肢の可動域の制限といった症状(リンパ浮腫)は、多くの乳がん患者を悩ませる代表的な副作用の一つだ。リハビリテーションやリンパドレナージと呼ばれる医療マッサージなど、症状を軽減する対策は実施されているが、完全に浮腫を解消してはくれない。
 何とか不要な郭清を避けることはできないか。そこで開発されたのが、センチネルリンパ節生検という手法である。今では、数十年にわたって常識とされてきた腋窩リンパ節郭清に代わって、標準治療となっている。
 「本当に、乳がん1本で行こうと思ったのは、M.D.アンダーソンがんセンターでの研修を終えてからですね」。消化器の腹腔鏡手術を全部引き受け「それと一緒に乳がんも診ていた」いわゆる二足のわらじで十数年。しかし、研修先のM.D.アンダーソンでの経験が中村先生を刺激した。先生が研修に行ったのは、M.D.アンダーソンが、内科と外科という診療科の垣根を取り払い、統合しようとする、まさにそのとき。チーム医療の真髄を目の当たりにした。
 帰国後は、消化器の手術を徐々に減らし、乳がんの診療に注力。すると、課題が次々と見えてきた。一般外科の受付で、さまざまな患者やその家族に囲まれながら、診察を待つ女性たち。彼女たちには「落ち着いて悩める場所」が必要だ。中村先生の頭にセンター化構想がちらつきはじめる。
 このブレストセンターのアイデアを、一番応援してくれたのは日野原重明先生(聖路加国際病院理事長)だった。周囲への理解の輪を広げながら、ブレストセンター開設は実現した。さまざまな専門家が一つの場所に常勤し、検査から、診断、治療までそこで完結する。チームが専門性を生かしながら、患者に寄り添い、きめの細かいケアを行うことで「自立」と「継続」を支える。センターは、そういう場所だ。

全身を見る力を養い、質の高い医療を提供する

 ブレストセンターを、ここだけで終わらせてはいけない。「そのためには人を育てなければ」。中村先生の新しい選択、それが教育者としての道だった。
 2010年に移った昭和大学は医系の総合大学といわれ、医学部、歯学部、薬学部、保健医療学部を有する。教養課程のうちは、学部にかかわらず寮生活を送る。「とても自然な形で関わり合える」職種間の敷居の低さに、中村先生はチーム医療の大きな可能性を見る。
 「さまざまな領域の若い人たちと関わるのは新鮮」と、教育者としての新しいフィールドから刺激を受けつつ、臨床家としての役割もおろそかにしない。昭和大学病院でも、ブレストセンターを立ち上げた。設計段階から「手塩にかけるようにして作り上げた」
 乳がんは、オンコロジーの側面からいっても最先端をいく。乳がんの治療は非常に合理的かつ戦略的だ。ホルモン感受性、HER2感受性、パターン分類、Ki-67などの増殖因子などから判定されるサブタイプも重視される。ただし、国際的にみると、課題もある。化学療法の効果や再発リスクを予測するための、オンコタイプDXやマンマプリントという遺伝子検査法の保険適用、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群といって、特定の遺伝子変異が原因になっている乳がん患者をスクリーニングするシステム、インプラントによる乳房再建の保険適用。中村先生は、これまでもそうしてきたように、こうした課題に一つ、また一つと、取り組んでいくに違いない。
 三代続いた鍼灸院で育ったという中村先生。そこには西洋医学的に処方される痛み止めだけでは癒されない人たちがたくさん集まった。施術だけでなく、祖父や父が行っていた人対人としてのコミュニケーションが「癒し」につながったのか。
 「日々是倖日」。中村先生の好きな言葉だ。人の幸せのために働くのが自分の幸せ。「お互いさま」という思い。「がんになってしまうと、いったんは気持ちが自分だけに、どんどん向かっていくんです。でも、自分のために心配してくれる人、自分を励ましてくれる人などに出会いながら、また、感謝の気持ちをもてるようになる。そして今度は、同じ経験をしている誰かのために手を差し伸べられるようになる。日々是好日の『好』が『倖』になったのは、それを患者さんから学んだから」
 患者たちの笑顔や充実した生活、それが中村先生の幸せなのだろう。

1982年千葉大学医学部卒業。同年より、聖路加国際病院外科にて研修。97年M.D.アンダーソンがんセンター他にて研修。2005年6月より聖路加国際病院ブレストセンター長、乳腺外科部長。10年6月より、現職。日本乳癌学会理事・「国際委員会」委員長・「保険診療委員会」副委員長、ASCO会員、NPO法人日本乳がん情報ネットワーク代表理事。一貫して、患者中心のチーム医療の実現に取り組む。今後はさらに「人を育てることでそれを広めたい」と意欲的。

外科医と院長―「当たり前」を積み重ねる日々

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幕内 雅敏 先生

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Treat to Target(目標に向けた治療実現)
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竹内 勤 先生

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