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外科医と院長―「当たり前」を積み重ねる日々

日本赤十字社医療センター院長
東京大学名誉教授
幕内 雅敏 先生

「世界の幕内」と呼ばれて久しい。東京大学卒業後、一貫して肝臓外科を専門とし、肝切除術の分野では国内はもとより、世界的にもその業績は広く認められている。肝切除の術中に用いる超音波診断機の開発、肝臓の系統的区域切除術の開発、常にクリエイティブな発想で独自の道を切り拓いてきた。「目の前の患者さんのために、やれることをやってきただけ」。振り返ってみれば30数年、2000人近くの命をつないできた。2007年、日本赤十字社医療センター院長に就任。これまでとは違った視点を要求される院長職をこなしながら、臨床を束ねる日々について、近況を伺った。

手術が始まったら、祈りながら終えるだけ

 院長を兼ねながら、現在、手術数は週に4~5例、東大の外科時代、年に300例をこなしていたころとは比べものにならないが、相当の激務である。
 「この前の手術は少し長かったね。朝から始めて、結局翌日の午前4時半くらいまでかかったかな」。ベテラン外科医はいともあっさり話されるが、所要時間約20時間。生体肝移植の平均手術時間は約16時間。手術後には、1キロ程度は体重が減る。肝切除も長いものがあり、やはり激務である。
 体が資本の外科医、長丁場の手術に耐える健康を保つ秘訣に水を向けたが、「僕は子どものころはよく病気をして、もともと体は弱い。なぜそんなに元気なんですか、と聞かれても困ってしまう。自分の健康のためになんて、何もしていない。やるときはやるとしか言えません。長年の修練の賜物、多くは気力で乗り切る。あえて言えば、祈りと信仰の日々ですよ(笑)」
 相手の気をそらさない会話運びからは、素早い判断力がうかがえ、冗談のなかにも、仕事への責任感や厳しさ、そして自信が垣間みえる。
 「年のせいか(笑)、最近はだんだん手術もつらくなってきている。でも、手術室に入れば体が自然に動く。そして、手術を始めたら、患者さんのためにどんなことがあろうと続けるしかないんです。その間は、祈るような気持ちです。どうか無事に終わってほしいとね」
 さて、院長職については「確かにこれだけたくさんの書類にハンコを押す仕事はこれまでなかった」とし、「でも、医療にかかわるという意味では、当たり前のことを当たり前にするだけ。院長であれ、外科医であれ、本質は同じです」と続けた。
 当たり前のことをするというのは、誰に言っても批判されないことをする、誰にでも堂々と言えることをする、ということ。「その当たり前が大事なんだ、とここに来て、つくづく感じました」
 経営者であっても、医療人として根底に通じるものは同じ。派手なパフォーマンスではなく、経験の重み、地道な積み重ねの大切さを説く。「神の手」と言われるほどの卓越した技術力を持つ外科医を支えてきたのは、試行錯誤。失敗から学ぶ謙虚さであり、失敗を克服するための工夫である。「僕たちの失敗は人の命にかかわります」という言葉は重い。
 24時間、365日、医師であれ、がモットーであるという幕内先生。「例えば、趣味は何?と聞かれたときに、医療以外のことを挙げる人がいますよね。ある意味、それは僕にとってはエセ医者。僕たちは医者。常に患者さんのことを考えるのが当然」
 患者さんに異変があれば、術後の管理に何か問題があったのではないかと考えるし、術中に急変があればどこにミスがあったのかと考える。「目の前で死んでいく患者さんの数をどう減らすか、その死をどう防ぐか」。そこに工夫が生まれる。

外科医も院長も、医療にかかわるものとして本質は同じ

 幕内家は、父親も外科医。そして、男三兄弟すべてが外科医の道を選んでいる。今思えば「無理強いされた覚えはありませんが、いろいろ自然にしむけられてたのかな。その意味では、まんまとおやじの術中にはまったのかもしれませんね」。幕内先生によれば、「学校の成績は、兄弟では僕がいちばん出来が悪かった」という。しかし、手先は器用、絵を描くこともうまく、図画・工作は大好き。「外科医としての資質には大切だったと思いますよ(笑)」
 ところで、幕内先生が、最近強く感じることのひとつが医療経済の矛盾だ。社会的にはあまりよく知られていないが、勤務医の給料は労働力に見合うとは決して言えない水準であるという。
 例えば、過酷な労働条件で、訴訟のリスクも抱える外科医。一時は新入会員数1800人を数えた日本外科学会だが、最近は新入会員が約半数の900人足らずだという。外科医のなり手がどんどん減少している。
 「日本の医療技術に対する診療報酬は、ある意味、非常に過小評価されている面があります」
 最新の高度医療を提供するシステムを維持するには、機器の買い替えはもちろん、施設の建て替え、それを十分に使いこなすスタッフの確保と能力維持のための教育等々、膨大な経費がかかる。医療とてお金と無縁ではない。いや、実は医療ほどお金がかかるものはない。「それなのに、ほとんどの患者さんたちは、できれば負担はゼロで、それでいて最高の結果を医療に求めているように思えます」
 外科医の数も、このままの減少傾向が続けば、ごく簡単な手術でさえ行えない日が来るかもしれない。「医療は人的資源がいる仕事。そのためには、やはりそれを支えるコストがかかります」。そのコストを負担すべきは誰か。きれいごとだけではない議論が切に望まれる。
 肝切除術では、連続して1056人の命を救い、「申請すれば間違いなくギネス」と本人も自負する実績だ。外科医の父は2008年に100 歳を迎えた。その時、幕内先生は62歳。「人間が生きるってどういうことかなって、このごろ時々思いますね」。それでも、医師は今日も患者のために働き続けるだけだ。24時間、365日、医師として。

1946年8月生まれ。東京大学医学部卒業。国立がんセンター手術部長、信州大学医学部教授、東京大学大学院医学系研究科教授などを経て、07年4月より日本赤十字社医療センター院長。信州大学時代に国内3例目の生体肝移植を行い、成人生体肝移植に世界で初めて成功。以降、生体肝移植の症例数は500を超えている。肝臓を血管の支配領域ごとに8つの区域に分け、最小限の部分だけを切除する「系統的区域切除術」を開発。また、肝臓外科に超音波診断を導入したパイオニアでもある。

世界を駆ける、胃がん手術のスポークスマン

がん研有明病院 消化器外科部長
佐野 武 先生

目指すは必要十分かつ安全な手術

兵庫医科大学 上部消化管外科教授
笹子 三津留 先生

小児心臓手術の時間短縮を目指して

財団法人日本心臓血圧研究振興会
附属榊原記念病院副院長 心臓血管外科主任部長
高橋 幸宏 先生

「患者中心のチーム医療」に取り組む

昭和大学医学部 外科学講座乳腺外科部門教授
昭和大学病院ブレストセンター長
中村 清吾 先生

Treat to Target(目標に向けた治療実現)
進化する関節リウマチ治療の標準化を目指す

慶應義塾大学医学部 リウマチ内科教授
竹内 勤 先生

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